金重明著、ブルーブックスの「複雑系」入門(2023年発行)生命について
少し難しすぎた。複雑系の話から生命の方に少し引っ張られてしまった。
これまでの生命誕生仮説は
①パンスペルミア説、最初の生命は宇宙より飛来した。隕石からアミノ酸、炭水化物、核酸塩基、リボース等が発見されている。
②隕石衝突の膨大なエネルギーによりアミノ酸等が生成し進化しRNAやDNAが出来た。まだ誰も証明できていない。単なるアイデア段階。
③地球上の深海熱水孔周辺、乾湿サイクルのある陸上温泉、火山柱の浅い池、氷の下の環境等で化学的に合成された。こちらもまだアイデア段階。
と言われているが、どれもアミノ酸等の有機分子からDNAやRNAのような複雑な分子が出現する過程を説明することは出来ていない。この複雑系の可能性は有機分子(生命とは言えない)から、どのように生命誕生につながるのか、本質的な解明の試みとして興味深い。
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1828年、フリードリヒ・ヴェーラー(独・化学者)、実験室で無機化合物から尿素(有機化合物)の合成に成功。
1869年、フリードリヒ・ミーシェル(スイス・医師)、白血球からリボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)を発見しヌクレインと命名した。
1905年~1910年、フィーバス・レーベン、ヌクレオチドを発見、DNA,RNAを構成する物質、糖・リン酸・塩基で出来ており、RNAやDNAを構成する単位、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)DNAのみ、ウラシル(U)RNAのみ。
1928年、フレデリック・グリフィス(英・医師)バクテリアの形質転換、遺伝情報が転移することを発見。
1944年、オズワルド・アベリー(米・医師)、マクリン・マッカーティ(米・遺伝学者)、遺伝情報を転移する物質がDNAであることを突き止めた。
1952年、ロザリンド・フランクリン(英・物理化学者)DNAのX線回折写真の撮影に成功。1953年、DNAの構造解析に取り組み論文を発表。
1953年、スタンリー・ミラー(米・化学者)、原始地球実験、水、メタン、アンモニア、水素を入れたフラスコを常時過熱し、生じた蒸気を別の容器に導いて電気スパークを作用させ、冷却するとアミノ酸が生成された。その後糖、各種アミノ酸、ヌクレオチドなども生成されている。
1953年頃、フランシス・クリック(英・生物学者)、遺伝暗号は3つの塩基配列(コドン)で1つのアミノ酸を指定することを発見。クリックはDNAの二重らせん構造を発見している。
1950年代半ば、ジョージ・エミール・パラーデ(米・細胞生物学者)リボソーム発見。すべての細胞に存在し、生体タンパク質合成を行う分子機械。メッセンジャーRNA分子(mRNA)のコドンに従って指定されたアミノ酸分子をつなぎ合わせ、タンパク質を合成、ポリペプチド鎖(DNA、RNAの構造)を形成する。
1961年、マーシャル・ニーレンバーグ(米・生化学者)、コビンド・コラナ(米・分子生物学者)DNAの暗号情報を読み解くと共にタンパク質合成のプロセスを明らかにした。DNAがほぐれ、DNAの持つタンパク質の設計図の情報(コドン)をコピーしたメッセンジャーRNA(mRNA)が合成される。mRNAは細胞内小器官リボソームに結合、トランスファーRNA(tRNA)はmRNAの指定するアミノ酸と結合し、リボソームに運ぶ。リボソームはタンパク質を合成、これを繰り返し次々とDNAを複製していく。
1962年、モーリス・ウィルキンス(英・生物物理学者)、フランシス・クリック(英・生物学者)、ジェームズ・ワトソン(米・分子生物学者)がDNAの構造を解明した功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞。DNAがA・T・C・G(4種のヌクレオチドで出来た核酸)の二重らせん構造であることを実際の模型で示した。
1960年代、ジャック・モノー(仏・生物学者)、フランソワ・ジャコブ(仏・医師、遺伝学者)、DNAの各部分にはON/OFFのスイッチがあり、それをタンパク質が制御していることを発見。これを機に、制御因子、促進因子、終結因子、開始因子があることが発見された。
1980年代、クリスティアーネ・ニュスライン=フォンハルト、ショウジョウバエ胚でモルフォゲン(Bicold)を発見。モルフォゲンは遺伝子スイッチ(ON/OFF)を入れる鍵としてモルフォゲンという物質が発見される。モルフォゲンは濃度勾配、時間などによってONやOFFを支持している。幹細胞はモルフォゲンの指示を受けて目や鼻、皮膚や神経、臓器などを形成する。
※モルフォゲンのこの微妙な調整の仕方はどこから来るのか、濃度変化や時間の僅かな違いで人間の各部位が形成されると言う。何がそれを指示しているのか、なかなか神秘的で奥深い。現在は濃度以外にも遺伝子ネットワークのフィードバック、細胞間の相互作用、物理的な張力や圧力等も関係しているという報告があるようだ。
1960年、ポール・エルデシュ(ハンガリー・数学者)、レーニ・アルフレード(ハンガリー・数学者)、数学論文「エルデシュ・レーニの定理」を発表。グラフ上の確率分布を示すランダムグラフ理論を数学的に確立した。例えばたくさんの島(点)が海に浮かんでいる。そこにランダムに橋(線)をかけていく。最初は小さな島がぽつぽつつながるだけだったのが、橋が増えるにつれて、ある瞬間”巨大な大陸”が現れる(相転移)と言う。自然現象で言えば、氷が解け始める温度、桜が一斉に咲き始める積算温度、雲が雨に変わる湿度等
1980年~1990年、スチュアート・カウフマン(米・理論生物学者)、エルデシュ・レーニの定理を元に、遺伝子スイッチのON/OFFが並行して同時にランダムに決定される、遺伝子のランダムネットワークを考案。そのネットワークの振る舞いをコンピュータを用いて計算した。遺伝子間の連携が密であれば、遺伝子ネットワークは興奮し、構造物のようなものが出来てもすぐに壊れてしまいカオス状態になる。逆にあまりに疎であれば、固定的な秩序状態になる。そのカオスと秩序の間、カオスの縁と呼ばれる領域では、細胞が創造的な動き(生命の創発)をすることを示した。
カウフマンは隕石などによって原始地球に存在したアミノ酸やヌクレオチドのような小さな有機分子が大量に存在している状態(原子スープ)で、それぞれの有機分子がエルデシュ・レーニの定理の点として働き、点と線が増えていけば相互作用を引き起こし、ある時点で相転移(創発)が起きてDNAやRNAのような複雑な分子が生まれることを示した。このような自己触媒ネットワークが生命誕生の可能性を示唆した。
ここからは、アレクサンダー・オパーリン、ディヴィッド・ディーマー、ジャック・シャストゥンらにより
さらに海中の環境において、疎水性と親水性の両端の性質を持つ脂質が多く含まれており、疎水性側の末端が結合し二重の膜を形成、この膜が球体を作り中空の細胞膜となる。これをリポソーム(リボソームとは異なる)と言う。
このリポソームは分子を出し入れすることが出来、細胞膜内の分子が過剰になると分裂し、同じ形状をした細胞が二つ出来る。(細胞分裂)
※カウフマンは、コンピュータ上のシミュレーションで、原子スープ(水中に有機分子が大量に存在している状態)の中でカオスの縁で相転移が起こり、DNAやRNAの生成(創発)が生じることを確認したと言う。今後、実験室で実際にその確認が出来るかどうか。現在も生命誕生の実験が繰り返し行われている。しかし、まだ、実験室でDNAやRNAが生成されたと言う報告はない。
40億年前に起こった生命の誕生、その再現が出来たとなれば40億年ぶりとなる。しかし、新種の生物はいつでも、どこかで生まれているのかもしれない。ただ人間がそれに気が付いていないだけのことかもしれない。但し、現在の生物学者は、新しく生まれた生命は、既存の生命がすべての資源を独占しているので、生き残る余地がないと判断しているようだ。
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以上の流れとは別に、生命誕生のRNAワールド仮説と言うのがある。
1986年、ハーバード大学ウォルター・ギルバートにより「RNAワールド仮説」が提唱された。初期のリボソームRNA(rRNA)がタンパク質合成能力を獲得、アミノ酸をつなぎ合わせポリペプチド鎖を形成し一本鎖の「リボ核酸(RNA)」が誕生した。RNAは不安定なため二重らせん構造を作り、安定な(デオキシリボ核酸(DNA)へと進化した。メッセンジャ―RNA(mRNA)はDNAの遺伝情報を転写しリボソームに運ぶ、リボソームはその情報を読み取りタンパク質を合成、遺伝情報を親から子へと伝えることが出来るようになった。更に脂質を活用し細胞膜を獲得、自己複製能力を有する原子生物が誕生した。
※ウォルター・ギルバートは、リボソームRNAの生成過程は語っていない。すでにリボソームRNAが存在している段階から、その後の生命起源説を語っている。これに対して、カウフマンは小さなアミノ酸レベルの有機分子が複雑な相互作用を繰り返し、カオスの縁で、RNAが生成すると言う、最も根源的なところを明かそうとしている。
今後の生命誕生の探求が宇宙を巻き込みどう展開していくのか興味が尽きない。